やり残した事(東海渓流釣行記2)

 

日時: 201057日(金曜日)~9日(日曜日)

参加者: ウォンバット、ジョーさん(非会員)、土曜日からコシヒカリさん撮影隊も・・・・

前回、4月中旬にジョーさんと行ったソウル日本海側(韓国では東海)に流れる川でのヤマメ釣りは本当にすばらしい釣りだった。 小型のミノーに次々に出てくる幅広のヤマメに感動したが、帰ってから気が付くと、ひとつ大事な事をやり残していたのに気が付いた。

 

フライフィッシング。 渓谷にはメイフライが乱舞し、大型のカディスの抜け殻が岩にいくつも張り付く絶好のフライ日和だったが、「大物は主にルアーに出ますよ」というジョーさんのお勧めで、ついにフライには手を出す間がなかった。

 

 そしてその助言は正しくて、ジョーさんに40センチの特大ヤマメが出た他、自分にも30センチ近いでっぷりとしたヤマメの他、大型が何本も獲れたのだが、やはりこんなフライ日和に毛ばりを振らなかった、という無念さが残った。 

 

釣りは、コンディションに合わせてよく釣れる釣り方を選んでアプローチするのが普通だが、フライフィッシングだけは釣り方にコンディションを合わせるようなところがかなりある。 それだけこの釣りの持っている独特の雰囲気が、「釣るならフライで!」という気に釣り人をさせるのだろう。 

 

僕はそれほど熱心なフライフィッシャーマンではない。 はじめたのは中学3年だから、数えれば42年前、という恐ろしく永いキャリアだが、途中キスの投げ釣り、船釣り、ジギング、ルアーなど多種類の釣りにめったやたらと手を出しているので、フライの腕前はちっとも上がらない。 釣り全般が徹底的に好きなのだ。 

 

浮気性なのかな?

 

それでも仕事で海外を点々とする内、要所ではフライとはいつも付き合ってきた。 ロンドン郊外のブラウントラウトやポーツマスでのレインボー、スコットランドツィードリバーでのサーモン(釣れなかったが・・・)、グレイリング、そしてオーストラリアでの憧れのブラックマーリン、NZクィーンズタウンのレインボーと随分といろんな魚をフライで掛けたものだが、生来の不器用でいまだに納得の行くキャスティングが出来ずに苦労している。

 

30台後半の頃に、紹介してくれる人があって、名人沢田賢一郎氏に多摩川の河原で10時間ほどレッスンを受けたことがある。 彼の流れるようなキャスティングフォームと魔法のようなフライラインのループに憧れて、何度も何度も河原で練習を繰り返したが、とうとう自分にはその技術は身に付かなかった。

 

それでも韓国のこんな良いヤマメを、何としてもフライで釣りたい! 今回のテーマはフライ。 ジョーさんも10数年前に習ったという昔のフライ道具を引っ張り出して、いざ出発!となった。

 

場所は前回良い結果の出た、江原道(クヮンオンドゥ)太白山(テベクサン)の麓を流れる川。 金曜日のPM6時半に我が家の前からジョーさんの車で出発。 今週は土曜日が「家族の日」とかで、行楽の車が一杯出ている。 途中のドライブインで食事をしたこともあって、河口付近のモーテルに到着したのは11時だった。 明日の釣果を夢見て、ビール一杯で早々に寝床に就く。

 

翌日は5時起床。 車で20分ほど遡り、6時半より釣り始め。 3週間前はサクラが満開だったが、本日は山々の新緑が眼に映える。 韓国は松林が有名だが、ジョーさんによると年々その面積は減っており、雑木林と呼ばれる広葉樹林が広がっているのだとか。 山々の虫たちを育てる広葉樹の広がりが、良いヤマメの釣れる原因だろう。 

 

天気は穏やかに晴れて、初夏の絶好の釣り日和。 「山笑う」とはこの時期の季語ではなかったか?

 

フライ、フライ、と入れ込んだ割りに、スタートはまずいつものミノーでちょっとだけ反応を見よう、ということになった。 目の前がガンガンの瀬で、フライにはちょっときつい状況、ということもあるが、過去の成功パターンからの脱却、というのは意外に難しい。 現在の日本とどこか似ているのかな??

 

ここでは僕に20センチ級のヤマメが2匹。 幸先が良い。 シュガーミノーという5gの小型ミノーを急流に乗せて流し、ターンさせながら流心を横切って緩めに引くと、水底が「ギラッ」と光り、重量感のある手ごたえが返ってくる。

ルアーは30分ほどで切り上げて、いよいよ本命のフライへ。 ジョーさんは自分に先行して、先回良い結果の出た、二つの小さな流れが合流してボリュームのある瀬と淵を形作っているポイントへと向かう。

 

自分は目の前にあるフラットなプールで始終起こる小さなライズリングが気になり、小型のドライフライをしつこく流してみる。 「ポクリッ!」という感じでフライが吸い込まれて当たったのは、なんと良型のハヤ! さっきジョーさんもミノーで大型を掛けていたが、この流域、河口から近いこともありかなりの数のヤマメとハヤが混生しているようである。

ジョーさんの目指したポイントへ追いついてみると、彼はこの淵で良型を2つ上げた、との事。 ハッチしているメイフライが超大型であることから#10~12の白っぽい相当大型のドライフライでよく食っているようだ。 この番手のフライを持たない自分はちょっと苦戦である。 

 

二つの流れの合流点近くからドライを流れに乗せ、淵へと誘導しようとしたところ、フロータントをたっぷり染ませた小型のドライが見えなくなった。 当たり! 7フィート6インチのバンブーロッドをしならせて上がってきたのは、25センチほどのでっぷりと太ったヤマメ。 ヤマメは本当に美しい河の宝石だ。

この淵でまたまたジョーさんが化け物を掛ける。 当たった瞬間上流へ向かった魚は一転して下流の淵尻まで突進する。 ジョーさんが一瞬、「掛かった! あっバレた!!」といって放心したのもつかの間、魚は続いて淵から瀬へと縦横に走り回った。 あまりの切り返しの速さにロッドワークが追いつかないのだ。

それでも手練のジョーさん、5Xのリーダーを気にしながらも態勢を立て直してじわじわと寄せる。 上がったのは何と、50センチ近いニジマス! ひれのぴんっと張った堂々とした体高の魚だった。

自分もNZの急流で50センチ前後のレインボーを掛けた事があるが、野生のレインボーは日本の管理釣り場で見るそれとは、同じ魚か?と思えるほどファイトの仕方が違う。 NZの時もガンガン流れる急流を物ともせずに、上流下流と暴れ回るスタイルに舌を巻いたものだが、本日のこのニジマスはNZを彷彿とさせるものがあった。 ジョーさん、今回もまたおめでとう!!

 

11時半に午前の部終了。 自分が4本、ジョーさんは倍以上を釣っているだろう。 数釣が目的ではないのでもう十分満足だ。

 

昼食の後はゆっくりと河原に戻り、午後の部スタート。 

ただ先回と同様、今回も午後の部は振るわなかった。 

夕間詰めに掛けて川がなぜか減水し、川虫はめちゃくちゃに豊富だが、魚の活性が全く上がらない。

 

風がやんだ瞬間、青みがかった淵から無数のミッジがハッチする。その中でメイフライも乱舞、カディスも舞い遊んですさまじい自然の豊穣さを演出するが、この風景にぜひ必要なヤマメのライズがない。

 

大型がたくさん潜んでいるのは良く分かっている例のニジマスのポイント。 本日の夕間詰めはここで過ごそう、と決めてポイントを休めていたのだが、薄暗くなって「いざっ!」と思ったとき、上流から投網を持った地元の人間が・・・・ どうやらこのポイント、僕らが考えるほど、うぶな釣り場ではないようだ。

 

本日はこれで終了。 念願のフライできちんと釣れたから大満足だ。 モテルに戻ってシャワーを浴び、PM8:30に約束していたコシヒカリさんと合流して夕食。

 

本日はダ〇ワ韓国の社長、コシヒカリ氏の招きで、東京よりプロのゲスト、奥山文弥氏が来韓する。 彼は日本でまだ16名しかいない、FFF(フェデレーションオブフライフィッシャーズ)の公認インストラクターであり、かつ東京海洋大学の教授でもある。 あらゆる釣りに精通されたプロフェッショナルだ。

 

河口に近い海鮮レストランで、コシヒカリさん、奥山さん、ジョーさんと釣り談義に花を咲かせながらの食事。 このようなベテランの人達と、昔話を含んでの釣りの話をするのは何よりも楽しい。 その後モテルで、明日の撮影隊の人達、韓国のプロの鮎釣り師の李さんたちとまた飲み会!

 

実は明日は奥山さんがメインでTVの番組用の撮影があるのだそうだ。 韓国の人達はお酒も強く、翌日のことを考えて12時までには終わったが結構飲んだ。 初対面の人も、釣りの話をし出すととたんに10年来の知己に替わるから不思議なものだ。 

 

翌日はこの鮎師の李さんのご案内で、フライフィッシングに適した釣り場を案内して頂く。 我々の狙ったポイントよりはだいぶ上流だ。 こちらは川幅が大きく開けていて、ゆったりとした流れが随所で岩を巻いて瀬と小さな淵を作る、典型的なフライポイントだった。

 

自分は意気込んでフライを振る。 奥山さんも手練の技で釣り上がる。 ところがまたまたジョーさんのミノーに2本続けて出た他には、我々のフライには音沙汰無し。 メイフライやカディスは相変わらず豊富だが、ライズが本当に少ないのだ。 良いポイントにも一向反応がない。

 

奥山さんは1時間ほどで早くもポイントを見切る。 「先行者がいるようです」なるほど、途中の河石が引っくり返され、トビケラの幼虫の巣が露出しているのが見えた。 更に上流ではまた、投網を投げている人も・・・・・・

 

僕とジョーさんは本日は渋滞を避けて早めにソウルへ戻るため、11時に納竿。 コシヒカリさんは餌釣りで早くも一本! 採集した黒川虫を見せてもらったが、ふてぶてしいくらいに肥えた川虫が餌箱にざくざくと・・・・・。 長野県の人、良くこんなのを佃煮で喰う気がするな・・・

「午後はポイントを大きく変えます」というコシヒカリさん、奥山さん、撮影隊の皆さんと別れて河原を上がる。 今回もジョーさんのおかげで大変楽しい釣りが出来た。 またプロの釣り師の皆さんとも楽しく交流することが出来た。

(その後、イブニングタイムにスーパーハッチが起こり、お二人とも爆釣だったようです!)

 

最後にひとつ、10年ぶりくらいに使ったハーディーのマーベル(脅威)、というバンブーロッド、往年の名竿として名を馳せたものだが、久しぶりで土曜日に使った時は、「なんだこりゃ?」という位に腰がなかった。 ピンピンのカーボンに慣れた腕には全くきれいなループが描けない。 「もうバンブーの時代じゃないな」とつくづく思った。

 

処が2日間振り続けると、キャスティングのコツを徐々に思い出して来た。 ショートキャストでもわずかにダブルでホールを入れると、風にも負けずにきれいなループが描けるようになってきたのだ。 「そうだ、そうだ。 そうだった!」やはり名竿は名竿。 使っている自分の腕の方がなまっていた事に気付かされた。

 

この竿を買って早42年。 京橋のつる屋に通う中学3年生は、店員さんの薦めるハーディーがどうしても欲しくて、小遣いを貯め実家の魚河岸でバイトしてやっとのこと手に入れた。 当時の大卒初任給を上回る値段だったと思う。

こいつとの付き合いも随分永くなった。 「ご主人様、しっかりしてくださいよ!」と竿に言われているような気がした。

 

 

この遊びはやめられない・・・・・・・

(終)