韓国での釣



午前10時40分、そいつは来た。 水深約1mのかけ上がり、小さなアタリがあったが何も動かず、再度竿先を軽く煽ると突然ズンズンと左方向の浮きドラム缶の下に走って行った。重い。道糸が障害物で擦り切れないよう魚を一旦沖に出し、数分のやり取りの末、釣友が取込んでくれたそいつは、全長56cm! 2006年4月15日、40数年の私の釣歴の中でこの日初めてブラックバスを専門に狙った。バス歴ウン十年、日本でも有数の釣り手という釣友達の手ほどきを受け、竿も仕掛けも借りての釣。20数cmの小型が良く釣れたので今日は小型の数釣だ、と決めてカケ上がりを釣り歩いていた途中の出来事であった。ブラックバスの韓国歴代少なくとも5位に入るであろうと釣友の言うこの大魚で私の韓国での釣魚国士無双和了計画は完了した。



実は数年前に韓国勤務を命ぜられた晩、駐在員向けHowTo本などは2の次でキーワード“韓国”と“釣”でAmazon.comを検索。 ヒットした田代俊一郎著“韓国の釣“では通信社勤務の著者が主に淡水域で釣り上げた各種の魚を紹介している。なんだ、結構知らない魚いるなあ、面白そうだ、本気で赴任してみるか、というのが私の韓国での国士無双和了計画のはじまり。 昔からヘラ鮒を主に狙っていたが、一緒に色々な魚が釣れる。麻雀で13種類の牌を集める手役を国士無双ということから、いつの頃か、場所を限って13種以上釣れるか数え始めた。 今迄に横利根川、多摩川、鎌倉沖、そして前任地のドイツでもライン川水系+オランダ、オーストリアを合わせて一本、で国士無双は上がれた。 前2者では20数種を超えた。では韓国でも、と意気込んでヘラ鮒と渓流釣り、軽い投げ釣の仕掛けを赴任荷物に紛れ込ませたのである。

赴任当初はわがソウル釣クラブがまだなく、まずは日本語の話せる店員のいる釣具店“タカミヤ”で釣り場地図と情報を求めた。 自身での車の運転を禁じられているので運転手に場所を調べてもらい、土曜日にヘラ鮒を狙った。 韓国に多い貯水池ではマブナを釣る韓国人が圧倒的で、まだ少ないヘラをやる人たちの様子を見ながら日本から持参した得意のエサで釣った。さすがに田んぼの周囲の小川狙いでは情報収集が難しく、春の乗込み時期を一寸はずすとヘラは来ずに小魚になった。 前回良かったからと再度貯水池に行ってみると田んぼに水を落として水深わずか数十cm、魚は網で持ち去られたあと、ということもあった。
 
田代氏の本や淡水魚図鑑で一番興味をそそられるのが“ソガリ”。 清流の魚だが意外にもソウル市内の漢江にいるといい、某橋の南岸下で夜行性というその魚を何度か狙った。 現場で会った地元の釣師からは、泥鰌をエサに年間50本も上げ、自宅水槽で泥を吐かせた後刺身にしたらこれ程美味い魚は無いよ、と羨ましい話も聞いた。
漢江の上流で韓国独特の釣り方をボートで家族でも楽しめるところがある。 夏の風物詩で、キョンジ竿というハエたたきに似た竿を使う。 先の平面に糸を巻きつけリール代わり、棒が竿の役。 本来は清流に立込んで釣る風流な釣り方だが韓国以外では見聞きしたことが無い。これで2-30cmのニゴイやハスだけで無く時折40cm級のカンジュンチという日本であまり見かけぬ魚も来て引き味を楽しめる。

淡水で国士無双完成まであと2種、という頃に我がソウル釣クラブが創設された。
皆と海へ船を出せば黒ソイ、アイナメなどが来た。 韓国ではブラックバスの魚影も濃く、クラブ仲間とその韓国人釣友に連れられフローター(浮き輪)に乗る釣りで何度も良型を楽しめた。 
HPを御覧戴ければお分かりのように、釣キチ、釣バカ揃いなので釣に関する情報と行動範囲は一人の時より遥かに拡大した。若くても経験を積んだ人達の腕は確かで、色々な釣の分野で上手がいるから未知の釣にも行けそうだ。 来シーズン、まだ見ぬ多くの韓国の魚達と遊び、また料理することを楽しみに、この冬場を耐え忍ぶことにしている。

記:国士無双
2006/11/20